映画『エンディングノート』 監督舞台挨拶レポート
宮崎キネマ館で2月11日から上映中のドキュメンタリー映画『エンディングノート』。
主人公は、高度経済成長期を熱血営業マンとして駆け抜けた「段取り命!」の元サラリーマン・砂田知昭さん。40年以上勤めた会社を引退し、第2の人生を歩み始めたばかりの時、胃がんが見つかります。そう遠くない将来に自らがこの世を去ることを意識した砂田さんは、「自らの死の段取り」を人生最後の一大プロジェクトとして手掛けていく・・。
主人公の次女である砂田麻美監督がカメラを回し、その最後の日まで前向きに生きようとする父の姿、そして家族の様子を描いたドキュメンタリー映画です。
作品は2011年10月に公開され、各地で既に話題となっています。
宮崎でも、映画を観た多くの方からから聞こえてきたのは「観てよかった」「すばらしかった」「生きることについて考えた」などという称賛の声でした。
「人の死」という重たく難しいテーマを扱った映画でありながらも、観客席では時に笑いが起こります。
ユーモラスで寛大なキャラクターの砂田さんや、その几帳面な性格をそっくり受け継いだ長男の様子を観ていると、何だか人間くさい一面を感じてつい笑ってしまうのです。
主人公の死に向かって進行する映画を観るのは悲しいけれど、幼い孫を愛おしい目で眺める様子を見ると微笑ましく感じ、また病と闘おうと医師とやりとりする姿は時に頼もしくも感じられ、苦しいであろう病床でもユーモアを交えて受け答えする場面をみてはまた心が和む…。決して悲しいだけの映画ではありません。
家族である監督が、とても近い距離で回したカメラだからこそ、気負いのない自然な家族の風景をみてとることができ、観客は自分が赤の他人であることをしばし忘れ、主人公をいつしか身近に感じてしまいます。
カメラ(監督)と主人公の距離感は絶妙に調整されていて、決して嫌味に入り込みすぎない距離感が保たれているところもこの作品の特徴の一つなのではないかと思いました。
キネマ館での公開初日、砂田監督を招いてのトークショーがありました。
なんとも言えない不思議な感覚を覚えるこのドキュメンタリー映画について、監督の話を聞きたいという方で会場は満員です。
東京から新幹線と高速バスを乗り継いで宮崎入りされたという砂田監督は、長旅の疲れも見せず、
「映画をご覧になった方に直接会えるのがとても嬉しいです」と挨拶されていました。
会場での内容を少しご紹介します。
●映画のなりたち
この映画はドキュメンタリーであり、出てくる人物や行動に偽りはないけれど、これは監督の意図が反映されて編集されてできた作品です。
また監督は、父親を映画の主人公としたけれど、「私のお父さんを見て!」というスタンスでなく、「高度経済成長期の時代を駆け抜けた一(いち)サラリーマンとしての、良いところも悪いところも含めて、分かりやすい一つのキャラクター」として父をとらえているのだそうです。
●タイトル『エンディングノート』について
まず、映画はエンディングノートを書くことをすすめるというものでは全くありません。
実際に、砂田知昭さんはエンディングノートを書いてはいたけれど、それは引き継ぎのようなものでしかなく、楽しく映画を観ていただくための演出として死ぬまでにやりたいことをチャプター化して表現しています。
死を扱う映画だけれど、タイトルは軽やかにしたいという思いがあったそうで、病が分かってから亡くなるまでの半年を振り返って、まるで段取りをしていたようだったな・・・と監督が感じたことでこのタイトルにしたのだそうです。
●家族の前でカメラを回すこと
小学校高学年位から家庭用のカメラを使って家族を撮って遊んだり、カメラには縁の深い生活をしてきた砂田監督。昔からよくカメラを回していたので、家族も撮られるのには慣れていたようです。
今回父親を撮影する時も、カメラを回される事が絶対に嫌だろうと思う時には、(娘として)撮らないことを優先させたそうです。きっと、監督ならば何としてでも撮りたい重要なシーンだとしても、それは自ら娘としての感情を大事にしようと決めていたのだそうです。
カメラはずっと回していた訳ではなく、「今だ」と思った時に撮影していたそうです。一度カメラを回せば、監督目線で物事を見ており、その意識の切り替えがこの映画の絶妙さを生んだのでしょう。
●これからの作品
今回は、身内が題材のドキュメンタリーだからこその難しい部分があったそうです。次は、フィクションを撮ってみたいと話していらっしゃいました。
砂田監督のお話を聞いて、映画だけでは分からなかった部分を知ることができて、この映画が与える不思議な感覚の謎が少し解けたような気がしました。
トークショーでも話題に出ていましたが、人生はそれぞれ、エンディングもそれぞれ。
砂田さんの人生の幕の閉じ方には、これまでの人生の歩み方が反映されているのではないかな、と映画を観て感じました。そして、人は一人で生まれ一人で死んでいくものかもしれないけれど、その周りには必ず家族がいて、つながっているものなんだと感じました。
父を思って寄り添う娘は、カメラを回している時には映画監督の目線。
そのスイッチを巧みに切り替えながら生み出されたこの映画を見て、あなたはどんなことを感じるのでしょうか?
ぜひご覧になってみてください。
■宮崎キネマ館
住所:宮崎県宮崎市橘通東3丁目1番11号 アゲインビル2F
電話:0985-28-1162
PC:http://www.bunkahonpo.or.jp/cinema/
携帯:http://www.bunkahonpo.or.jp/i-cinema/
■宮崎キネマ館にて上映中
(〜3月9日(金)まで)
『エンディングノート』
公式HP:http://www.ending-note.com/
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