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体で感じる・心が育つ
こどもに関するコラム集!専門家がコラム・情報を掲載しています。
 
No.178 人生の岐路に立つとき、子どもは親に反抗する
原 田 京 子 ( 児童文学作家 )
 反抗期というと、私自身は思い当たりません。おそらく自営業で両親共働きだったため、「勉強しなさい」といわれたり、干渉されることもなかったので、反抗する必要もなかったのでしょう。そのせいか、私はなんでも自発的に自分からやっていたような気がします。夏休みの宿題など、最初の何日間かで終わらせるタイプで、読書感想文なども自発的に書いていました。勉強をすることが苦にならない、そんな子どもでした。それは今でも変わりませんが。
 そういうわけで、私は親から干渉されることもなく、自由気ままに育てられた記憶があります。ただ、父が病気がちだったこともあり、経済的な理由で、大学の選択や将来の進路に関しては「地元の国立大学で」と両親の希望もあり、私自身それに対して何の不満もありませんでした。
 そんな私が、初めて両親に従わなかったことがありました。それは、大学3年生になったときでした。その頃の私は心理学という学問の面白さに目覚め、大学院進学を希望していましたが、両親は小学校の教員になることを望んでいました。もちろん、心理学という学問に出合うまでの私は、小学校の教師になるつもりであり、大学も教育学部の小学校教員養成課程を選んでいたのです。
 教員採用試験の勉強より、大学院進学の勉強がしたくて、私はついに母に「大学院に進学したいから、教員採用試験は受けない」といいました。そのころ病気で入院していた父は、母からその話を聞き、母にいったそうです。
「今まで何事も親に従ってきたあの子がそんなことをいうなんてよほどのことだろう。望みどおりにさせてあげなさい」と。
 私は教員採用試験を受けることなく、大学の専攻科に残り、大学院進学の準備を始めました。しかし、翌年、父が他界し、私は大学院進学をあきらめざるを得ませんでした。そして、次の年に教員採用試験を受け、小学校の教師になったのでした。
 私はいつか必ず大学院に進学する、心にそう決めていましたから、慶応大学文学部の通信教育課程に学士入学し、心理学の勉強を続けました。そんな私を見て、夫が地元の大学の教育学部に大学院ができた年、進学を勧めてくれ、自分の年の半分ほどの大学生に交じって大学院の入学試験を受け、無事合格して大学院生となったのでした。
 妻であり母であり大学院生であるという三足のわらじを履いた生活は本当に大変でしたが、好きな学問を勉強できるという喜びはその大変さに勝り、無事に二年間の大学院生の生活を終えて手にした学位は、その後の私の生き方に大きな影響を与えることになりました。
 息子に関しても、反抗期といえるものは無かったような気がします。小学校を卒業して親元を離れていたからだと思いますが、息子に関して反抗期らしきものがあったとしたら、それは小学校4年生になった頃だと思います。「私立の中学に行きたいので塾に行かせてほしい」と息子から申し出があったのです。夫は、小学校から学習塾など行かなくてもいいと反対しましたが、ある日、とある学習塾から、
「お子さんが私どもの塾に通いたいということですが、ご両親が反対しているので話をしてほしいということです」と電話がありました。
「どうせ、長続きはしないだろうと思うので、1ヵ月間でもお試しで通わせていただけますか?」、私はそう答えました。
 そうして塾に1ヵ月だけ通うことになり、息子はお弁当を自分で作って塾通いを始めました。
1ヵ月が経つころ、また学習塾から、
「お子さんがこれからも続けて塾に通いたいので、御両親に許可をもらってほしいということです」と電話がありました。
結局、夫の許可がおり、息子の塾通いが本格的に始まったのでした。
 6年生になると、息子はスポーツ少年団でバスケットを始め、キャプテンになりました。試合は日曜日にありますが、塾の試験も日曜日にあることが多く、息子は試合と塾の試験とを掛け持ちすることになるのですが、そんな息子を見て、またもや学習塾から電話がありました。
「私立中学を受験するなら、バスケットをやめさせてください。掛け持ちは無理です」。私は答えました。
「バスケットをやめるくらいなら、塾をやめさせます」。
その結果、息子はこれまでどおり、塾とバスケットを掛け持ちすることになり、そんな生活を小学校卒業時までやり遂げたのでした。
 反抗期らしい反抗期は私も息子も経験していませんが、それぞれ自分の人生において選択の岐路に立った時、親の希望に逆らって自分の意見を押し通したということになります。きっとその選択は正しかったのでしょう。なぜなら、私も息子も自分の望む道を進み、自分の好きなことを思う存分やっているからです。そして、それは本当に幸せなことだと思っています。
 今、私はあらためて夫に感謝をしています。なぜなら、私と息子に「思い通りの人生を生きるという幸せ」をもたらしてくれているのは、すべて夫であり父親である存在があったからなのですから。
 さて、みなさん、この1年はどんな1年でしたか? 
 来年はどんな年にしたいですか?
 私を幸せにしてくださるすべての人に感謝をして、この1年を終わりたいと思います。
 そして、世界中の人々が幸せな思いでこの1年を終わることができますように。
2022-12-01 更新
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著者プロフィール
原田 京子(はらだ きょうこ)
1956年宮崎県生まれ
大学院修士課程修了(教育心理学専攻)

【著書】
児童文学
『麦原博士の犬語辞典』(岩崎書店)
『麦原博士とボスザル・ソロモン』(岩崎書店)
『アイコはとびたつ』(共著・国土社)
『聖徳太子末裔伝』(文芸社ビジュアルアート)
エッセー
『晴れた日には』(共著・日本文学館)
小説
『プラトニック・ラブレター』(ペンネーム彩木瑠璃・文芸社)
『ちゃんとここにいるよ』(ペンネーム彩木瑠璃・文芸社)
『タイム・イン・ロック』(2014 みやざきの文学「第17回みやざき文学賞」作品集)
『究極の片思い』(2015 みやざきの文学「第18回みやざき文学賞」作品集)
『ソラリアン・ブルー絵の具工房』(2016 みやざきの文学「第19回みやざき文学賞」作品集)
『おひさまがくれた色』(2017みやざきの文学「第20回みやざき文学賞」作品集)
『HINATA Lady』(2018みやざきの文学「第21回みやざき文学賞」作品集)
『四季通り路地裏古書店』(2019みやざきの文学「第22回みやざき文学賞」作品集)




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