ミテンの本棚 > 体で感じる・心が育つ | ||||||
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先月のコラムで人工関節置換術の手術を受けたことを書きましたが、二週間ほどの入院を経て無事退院しました。昨年末の右足の股関節に続き、今回の左足の股関節の手術で、私は両足とも人工関節となりました。 整形外科医をしている弟が「0から1よりも1から2のほうが楽だよ」といっていた通り、一度経験しているおかげで、二度目の入院生活は一度目よりさらに快適でした。手術後、三日目には車椅子で移動でき、その二日後には歩行器、さらに術後一週目には杖で歩けるようになりました。前回お世話になった理学療法士の方は移動で他の病院に移られ、今回は別の療法士の方が担当してくださいましたが、前回と同じように「原田さんは筋肉が綺麗についているので、回復が早いですよ」と褒められました。リハビリを含めて二週間の入院。転院する必要もなく退院できました。入院する直前まで加圧トレーニングなどを含め、筋トレに励んだおかげで、手術の翌日には脚を動かすことができ、順調にリハビリに取り組めたので、筋トレの大切さを実感すると共に、手術を担当してくださった医師の方を始め、私の手術に関わってくださったすべての方々、そして、その素晴らしい医療技術に大いに感謝したのでした。 というわけで、私の足は人工関節となりましたが、私の体にはもう一箇所人工物の助けを借りている場所があります。それは、耳です。小学生の頃、重い肺炎を患ったせいで、聴覚が普通の人より劣っています。中学校の聴覚検査でそのことが判明しましたが、日常生活に支障がなかったので、還暦を過ぎる頃まで補聴器を必要としませんでした。 しかし、mrt宮崎放送の番組審議会の委員を務める過程でその必要性を感じ、補聴器を作ることにしました。65歳で審議会の委員の仕事を終え、しばらくは放置していた補聴器でしたが、最近、難聴は認知症を促進させ、補聴器をつけると認知症になる確率が低下するということを知り、つとめて補聴器をつけるようになりました。 いざ補聴器をつけてみると、驚くべきことが起こりました。付けていないときには聞こえなかった音がいかにたくさんあるかということがわかったのです。衣擦れの音、水滴が落ちる音、木の葉が風に揺れる音、などなどこれまで聞こえていなかった音が聞こえるようになったのでした。きわめつけは北海道での出来事です。「さっきからカッコーが鳴いているよ」、草刈をしていた夫がそういったのですが、私にはまったく聞こえていませんでした。そこで、補聴器を装着すると、「カッコー、カッコー」とはっきりと聞こえるのです。庭の大木のどこかにカッコーがいるのでしょう。姿は見えないけれど鳴き声が聞こえることでその存在を知ることができた。私は素晴らしい自然の中にいることを体感することができたのでした。 さて、以前のコラムで「スマホを見る時間を減らす努力をしよう」と私の決意を書きましたので、私の最近のスマホを見る時間をご報告することにします。スマホの設定にはスクリーンタイムという項目があり、スマホを1日にどのくらい見ているか、どんな内容を多く見ているかなど、詳しく知ることができます。私の場合、最近のデータでは、1日平均30分から45分くらいスマホを見ているようです。以前、どのくらいスマホを見ていたかを調べていないので比較できませんが、おそらくこの2倍から3倍は見ていた気がします。スマホを見る時間が減って何か困ったことがあったか? まったくありません。スマホを見るのはメールをチェックするときくらいで(相変わらず9割以上は迷惑メールです)、SNSを見る時間もかなり減りました。 先月のコラムで、前回の入院では足し算、今回の入院は引き算と書きましたが、このことにはスマホを見なくなったことが大きく影響していると思っています。これまで必要だと思っていたものが実際には必要なかった、あたりまえだと思ってやっていたことが案外無駄なことだった、そう思えることがたくさんあったからでしょう。スマホを見ないことのメリットは大いにありそうです。 自分がスマホを見なくなると、周りの人間のスマホ依存がとても目に付くようになります。先日レストランでランチを食べていたときのこと。カウンターでとなりに座ってきた若い女性が席に着くなりスマホを手にしてテレビを見始めました。料理を食べているときもスマホをスタンドに立てかけて見ています。私はこの光景を目にしてなんだか恐ろしくなりました。私自身は、スマホを見ないようにしようと決意する以前から、スマホでテレビを見たり、音楽を聴いたり、ゲームをしたりすることはまったくありませんでしたので、スマホを見ないようにすることはそれほど難しいことではありませんでした。しかし、このレストランでの女性のスマホへの接し方を見ていると、ひとりでいるときに何もしないでいることが耐えられないのではないか?と思えてきました。 一人でいることに耐えられない、誰かといっしょでなければ何もできない、何でもいいから誰かとつながっていたい、たとえそれが会ったこともないSNSだけのつながりの相手であったとしても。面と向かっていても相手のことを完全に理解することは難しいのに、会ったこともない、スマホだけでつながっている相手のことを理解するのは不可能です。が、そんな人間関係でつながっている人がたくさんいるような気がします。 そんな「スマホ中毒」に陥らないためにも、もういちど自分がどのくらいスマホに依存しているか、チェックしてみる必要があるかもしれません。そして、スマホ抜きで自分自身と向き合って、自分がどれくらいそれに耐えられるか試してみるのも良いでしょう。 私には入院、手術という機会が与えられ、自分と向き合う時間が増えたことで、人生観が変わりました。そして、人工関節によって股関節の痛みがなくなり、補聴器によって以前よりいろいろな音が聞こえるようになったことで、まさに心身ともに生まれ変わったような気がします。二度の入院と手術は私に試練を与えると同時に、それを乗り越えた私にたくさんのご褒美をくれたのでした。 |
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2024-09-02 更新 | ||||||
2007
| 12
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著者プロフィール | ||||||
原田 京子(はらだ きょうこ) 1956年宮崎県生まれ 大学院修士課程修了(教育心理学専攻) 【著書】 児童文学 『麦原博士の犬語辞典』(岩崎書店) 『麦原博士とボスザル・ソロモン』(岩崎書店) 『アイコはとびたつ』(共著・国土社) 『聖徳太子末裔伝』(文芸社ビジュアルアート) エッセー 『晴れた日には』(共著・日本文学館) 小説 『プラトニック・ラブレター』(ペンネーム彩木瑠璃・文芸社) 『ちゃんとここにいるよ』(ペンネーム彩木瑠璃・文芸社) 『タイム・イン・ロック』(2014 みやざきの文学「第17回みやざき文学賞」作品集) 『究極の片思い』(2015 みやざきの文学「第18回みやざき文学賞」作品集) 『ソラリアン・ブルー絵の具工房』(2016 みやざきの文学「第19回みやざき文学賞」作品集) 『おひさまがくれた色』(2017みやざきの文学「第20回みやざき文学賞」作品集) 『HINATA Lady』(2018みやざきの文学「第21回みやざき文学賞」作品集) 『四季通り路地裏古書店』(2019みやざきの文学「第22回みやざき文学賞」作品集) *********************** ※ブログのアドレス(※モバイルでは正しく表示されない場合がございます。 ) 「彩木瑠璃の癒しの庭」 http://ameblo.jp/akylulu/ 「彩木瑠璃の心の筋トレ」 http://blog.livedoor.jp/saikiruri/ 「巴里アパルトマン生活を夢見て」 http://blog.goo.ne.jp/saikiruri ----------------------------------------------------------------------- 『プラトニック・ラブレター』の単行本が好評で、装いも新たに幻冬舎から電子書籍化されました。 Amazonの電子書籍はこちら(外部サイトへ) 紀伊國屋の電子書籍はこちら(外部サイトへ) |
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